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Icecream Headache

by dummy run

【シリーズ バッコ石】青森県七戸町 婆古石そばと婆古石大明神

婆古石そばを食べてきました。

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婆古石そばとは、私の生まれ故郷 青森県七戸町にあるそば屋です。普通盛りと大盛りがありますが、大盛りでも結構つるっと食べれちゃいます。

 

ところで「婆古石」とはなんでしょう。

「婆古石」とは七戸に古くから伝わる民話で、「婆古石そば」のメニューにもその伝説が書かれています。引用してみましょう(分かりやすくするために多少加筆修正しています)。

 

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婆古石

七戸地方の民話より

むかしむかし、山におやつを背負って行ったお婆さんがいたそうな。お婆さんはたいへん腰が悪く、さらにたくさん歩いたので疲れてしまいました。どこかで休もう、そう思ったお婆さんは近くにあった石に「よっこらしょ」と言って腰をおろしました。そうして休んでいたところ、なんとお尻が石から離れなくなってしまい、ついにはお婆さんも石になってしまいました。

そうしてできたその山を集落の人々は「バッコ石」と呼ぶようになりました。すっかり高くそびえるようになったバッコ石を人々は祀るようになりました。毎年9月24日になると、バッコ石でお祭りが開かれ、腰の悪いお婆さんたちが腰が治るようにバッコ石に参詣するんだそうな。

まさかの石化オチ。お婆さんは別に何にも悪いことしてないのに。山登りに行って、疲れたから休みますかねよっこらせ、と石に腰掛けたらそのまま石になるという、山自体が呪われてるとしか言い様が無いのに後世ではお参りしちゃってるし。

 

で、七戸町民のうちどれだけこの婆古石物語を知っているか分かりませんけど、私自身は昔何度か聞いたことがあって。その中ではこんな話でした。

むかしむかし、お爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山へ芝刈りに行きました。お昼頃になって、お婆さんがお爺さんのお昼ごはんをお櫃にいれて山へ持って行きました。腰の悪いお婆さんは行くで疲れてしまい、お櫃の上に腰掛けました。そのとき、お婆さんはついおならをしてしまいました。するとみるみるうちにお婆さんは石になってしまいました。(最後の方は忘れてしまいました)

お婆さん、放屁。

でも、これだとまだ話が分かります。要は、食べ物の上で屁をしたことにより食べ物の神様の逆鱗に触れたということ。石にされるほど悪いことをしたかどうかは別として、非はお婆さんの方にあります。

 

ちょっとこの民話に興味を持って調べてみたんですが、あんまり資料が無い中で青森県東北町の「グループ北の会」という団体によるこの民話の実写ドラマ化映像を見つけました。これがちょっと面白かったので、以下に「グループ北の会」のドラマを元にした「婆古石物語」を書き記したいと思います。

(なお、以下の文は意味が通りやすいように松本が加筆修正しています)

婆古石

 

【オープニングナレーション】

八甲田の山の下っ腹の方に七戸町っていう小さな町がある。

町の中を流れる川をずーっと上流のほうに行くと、石になった婆様の言い伝えがある婆古石を祀った山がある。

この山は婆古石の神様のもので、木一本、草の根ひとつも傷つけるとバチが当たると恐れられている。

もし金儲けする気になって木ば切れば必ずその家に怪我人や死人が出たりするという話だ。

みんなに大事に大事にされてる山だ。

この神社のご神体、この大きな石が婆さんが飯櫃を背負ったまま石になったという、婆古石の山だ。

ね?横からだとそう見えるでしょ?

- - -

 

むかしむかし、たいそう仲のいい爺さんと婆さんがふたりっきりで住んでいた。

爺さんはその日、隣に住んでいた爺さんと山に薪を取りに行く約束をしていた。

 

爺さん「今朝は寒いから天気がよくなりそうだなぁ」

隣の爺さん「でも今年は温かいからまだ樹の葉が落ちていないかもな」

爺さん「まぁでも今のうちに薪をいっぱいとっておくにこしたことあるめぇ」

 

薪取りの準備をしていた爺さんたちに、婆さんが言った。

 

婆さん「私はあとからお昼ご飯持っていくから。いつもの山に行くんだべ?気ぃつけてな」

 

婆さんの見送りを受けて、爺さん二人は山に入っていった。

しばらくして、爺さんたちはよく乾いている木を見つけると、薪作りの作業を始めた。

 

- - -

 

その頃、婆さんは爺様たちのお昼の用意ができた頃だった。

 

婆さん「さぁ、もうお昼になってしまう。爺さんたちも腹が減ってるころでしょう。急がないと」

 

婆さんは爺さんたちのお昼を入れた飯櫃(めしびつ=お櫃のこと)を背負って家を出た。

 

少し歩くと、畑で小豆を打っている近所の婆さんに会った。

 

小豆打ちの婆さん「あ、どこに行くんだ?」

婆さん「山に爺さんたちのお昼を持って行くとこだ」

小豆打ちの婆さん「そう、気ぃつけてな」

 

婆さんは山に入って少し歩くと、今度は村の木こりに会った。

 

木こり「やぁ婆さん、どこへ行くんだ?」

婆さん「山に爺さんたちのお昼を持って行くとこだ」

木こり「もう昼か。気ぃつけてな」

 

婆さんは山道をしばらく歩くが腰が痛いうえに、尿意や便意までももよおしてきた。

 

婆さん「やーやー、腰が痛いわ、疲れたわ、ションベンもしたいしクソもしたい、ちょっと茂みに入って用を足すか」

 

婆さんは飯櫃を背負ったまま、茂みに入って用を足した。

 

婆さん「いやー、さっぱりしたさっぱりした。ここで少し休んでいくか、どっこいしょっと」

 

用を済ませて茂みから出てきた婆様はさっぱりしたついでに、石に腰掛けて一休みをした。

 

- - -

 

その頃、爺さんたちは作業しながら婆さんを待っていた。

 

隣の爺さん「腹減ったなー」

爺さん「日は高くなったけど、婆さんまだ来ねぇなぁ」

隣の爺さん「もう昼過ぎてるんじゃねぇか?」

爺さん「ちょっとなんかあったんじゃねぇかな、ちょっと見てくるわ」

 

爺さんは婆さんを探しに行きました。が、婆さんを見つけることはできなかった。

爺さんは一度薪取りの作業をしている場所に戻ることにした。

 

爺さん「おかしい、婆さんがどこにもいない。いつものところだから迷ったとも思えないし・・・」

隣の爺さん「どれ、俺も探すのを手伝おう」

 

爺さんたちは探す範囲を広げて、もっと家のほうまで探してみようと思った。

戻る途中で、畑で小豆を打っている婆さんに会った。

 

爺さん「うちの婆さん見なかったか?」

小豆打ちの婆さん「あー、さっき爺さんたちの方に飯櫃を持って行ったよ」

爺さん「いやそれが来なくて、いなくなってしまって・・・ども、ありがとう」

 

爺さんたちは再び山のほうへ戻っていった。

小豆打ちの婆さんはたいそう心配して、近くの畑で働いていた村人たちに声を掛けた。

 

小豆打ちの婆さん「なぁ、婆さんいなくなったって、探してくれないか」

 

村人たちも心配して婆さんを探すために山へと入っていった。

 

村人1「婆様ー。婆様ー」

村人2「婆様ー。どこに行ったー。婆様ー。」

 

村人たちは婆さんを呼びながら山を捜索していた。

すると、

 

村人1「なんだ、これ?」

 

村人が何かを発見した。

 

村人1「この石に掛かっているの、婆さんの物じゃないか?ここらにいたんじゃないか?ちょっと爺さんを呼んでくる!」

村人2「よし、じゃあ俺はここらへんを探してみる」

 

しばらくして村人は爺さんを婆さんの物を見つけた場所まで連れてきた。

 

村人1「これ、婆さんのじゃないか?」

爺さん「そうだ、これは婆さんのだ!どうなってるんだ?」

 

村人が見つけた物、それは婆さんの衣服だった。

 

村人1「今までここらへんいったいを探してるけど婆さんを見つけられない。裸でどこに行ったもんなんだか」

村人2「まさか石に飲み込まれたんじゃあるまいし」

 

爺さんは婆さんの服が掛けてある石の前に跪いた。

 

爺さん「婆さん、婆さん、どこに行ってしまったんだ。ほんとに石に食われてしまったのか」

 

- - -

 

それからあの石は見る間に大きくなっていった。その形はまるで飯櫃を背負った人間が寄っかかって休んでいるかのようだった。

その後も婆さんの捜索は続けられたがついに発見されることはなかった。

 

村人「どうして婆さんいなくなったんだ」

村人「神様の逆鱗に触れるようなことしたんだべかなぁ」

村人「おっかねぇ、おっかねぇ」

 

婆さんの恨みか何か、この石は祟るという話が村に広がり、祟りを恐れた村人たちは立派なお社を建てて祀るようになった。

 

一方、残された爺さんは寂しさのあまり、山仕事にも畑仕事にも出ることがなくなってしまった。あれだけ仲のいい婆さんがいなくなってしまったんだから当然だろう。

 

爺さんは婆さんのことが恋しくなっては、婆恋し、婆恋し、と婆さんがいなくなった石のところに行っていたそうだ。でも大きくなったその石は、ただただ何も答えず、じーっと爺さんのことを見下ろすばかりだった。

 

それを心配したのは遠鳴りの爺さん。いっつも一緒に山を歩いていたけどすっかり元気がなくなった爺さんを心配しては様子を見に行っていた。

 

隣の爺さん「じい、元気だせよ」

爺さん「・・・。」

隣の爺さん「ほら、酒だ。酒でも飲んで、な?」

爺さん「(無言でお猪口に酒を注がれる)」

隣の爺さん「・・・気立てのいい婆さんだったよなぁ」

爺さん「(無言で石を見上げる)」

隣の爺さん「なんでこんなことになってしまったんだろうなぁ」

 

爺さんの婆恋しい、婆恋しいという気持ちから、村のみんなはこの石を「婆恋しの石」と呼ぶようになった。それがだんだん縮まって「婆古石」と呼ばれるようになった。

お社も「婆古石大明神」という立派な名前がついた。

 

これが「婆古石」のお話。

みんなも、この山に来たら、木の根、草の根ひとつ、ムダにしたりしたらダメだぞ、な?

 

どっとはらい

 

以上、婆古石物語でした。なんかすごい話でしょう?

お年寄りによる友情あり、純愛あり、SFあり、糞尿あり。もはや婆古石そばのメニューに書かれた物語とは婆さん石化!なことぐらいしか合ってません。

言い伝えられてきたものですし、ドラマ化するにあたって若干の脚色や変更があったかもしれませんが(上のテキストも内容がわかりやすいように加筆修正をしています)、まさか脚色で老婆の排泄行為を描写するとは思えないので、このドラマの内容が結構元の話に近いんじゃないかと思います。

 

面白いのは婆さんが最終的に神様になっているところ。婆さんが石になったのは「山で飯櫃を背負ったまま排泄行為をしたことによるもの」で、これは「山の神様」ではなく(ちゃんと登場はしませんが)「ご飯の神様」が下した罰かもしれません。

一方で婆さんはただ石になったわけではなく、むやみに草木を伐採する人に祟りを与える「山の神様」にもなっています。実際「婆古石大明神」として崇め奉られているくらいですから、相当な祟りがあったりしたんでしょう。

婆さんがこの山のことを大事に思うような描写が無いので、死人が出るほどの祟りはちょっとやりすぎな感じもしますが、しょっちゅう山に入っていた爺さんを想ってのこと(薪や木の実をこれからも取れるように山を守るための祟り)だとしたら、最後に爺さんの想いに対して応えているようでちょっとドラマチックだなぁなんて思います。もちろんこれは憶測で、単に生まれた時から慣れ親しんだ地元の山だから、というだけかもしれませんし、そもそも大した理由が無いのかもしれませんけどね。

 

で、実際に今、婆古石はどうなっているか見てきました。

 

より大きな地図で 婆古石 を表示。 

 

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この道路の先に婆古石大明神があります

 

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婆古石大明神(婆古石神社)は右です

 

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うわぁ。舗装されてない

 

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婆古石大明神の鳥居。りっぱ!

 

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でも森しか見えない・・・。

 

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 山道すぎて来たことを後悔するレベル

 

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 熊とかに出くわしそうなレベル

 

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 到着。ここが婆古石大明神のお社。

 

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 中央やや右寄りに尖った石がありますが、

これが婆古石です。

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かなり大きいです

 

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軽く登ってこないと見られない上に、

階段が土に還っています

 

婆古石大明神に参詣する際の注意点:

・虫がものすごいいるので長袖長ズボン、および虫除けスプレーで防御して行きましょう。

・最初は森の中を進んでいきますが、最後は急な山道な上に階段が階段じゃなくなっています。滑らないような靴を履いていきましょう。

・むやみな殺生や伐採はやめましょう。

 

 

参考:

婆古石そば

グループ北の会 制作 「婆古石物語」